檜皮葺の歴史と発展
檜皮葺の歴史は古く、飛鳥時代(7世紀後半)にはすでに使われ始めたと考えられています。奈良時代には、高価な瓦の代替として貴族の邸宅や寺院建築に積極的に採用され、平安時代に入ると最も格式の高い屋根工法として宮殿建築や神社建築に広く用いられるようになりました。平安期の国風文化の中で檜皮葺は最高級の屋根仕上げと位置づけられ、当時の史料や絵巻にも寺社仏閣や貴族邸宅の屋根に檜皮葺が描かれています。
一方で瓦葺は6世紀末(推古天皇朝・588年頃)に大陸から伝来しましたが、当初は非常に高価だったため、限られた大寺院でしか用いられませんでした。奈良・平安時代の一般的な建造物では、檜皮葺や板葺(杮葺など木の板による屋根)が主流であり、大寺院以外の多くはこれら植物性素材の屋根であったことが絵巻物からも読み取れます。
技法の発展
当初の檜皮葺は、剥いだ樹皮を縄や葛藤で縫い付ける簡素なものでしたが、時代が下るにつれて技法も発達し、鎌倉時代頃までには、竹釘を使った現在の優美な檜皮葺の手法が確立したとされています。竹釘の考案によって屋根材をしっかりと固定できるようになり、流麗な曲線を描く大屋根構造が可能となりました。
代表的建築と現状
歴史的な檜皮葺建築の代表例としては、京都御所・紫宸殿、厳島神社(広島県)の社殿群、清水寺(京都市)本堂などが挙げられます。これらの屋根は濃い茶色の檜皮が幾重にも重ねられ、瓦とは異なる平滑で落ち着いた景観を形成しています。
日本全国で見ると、重要文化財に指定されている檜皮葺建造物だけでも約700棟にのぼり、指定外も含めると1,650棟以上に及びます。檜皮葺は日本固有の伝統技術であり、これら文化財建造物を保存するために欠くことのできない技術です。
しかしながら、現代の一般建築では檜皮葺が用いられることは皆無といってよく、文化財建造物の修復・維持の場面でのみ需要がある特殊な技術となっています。このため、後述するように素材調達や技術継承の面で課題が生じつつあります。
ユネスコ無形文化遺産に登録
2020年には「檜皮葺(ひわだぶき)」「杮葺(こけらぶき)」「茅葺(かやぶき)」「檜皮採取(ひわださいしゅ)」「屋根板制作」の技術が、伝統建築工匠の技としてユネスコ無形文化遺産に登録されました。この登録には、日本独自の自然素材を活かした技術体系が国際的にも高く評価された結果です。このことは後継者育成や保存活動にも大きな後押しとなっています。
